ストーリー
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19世紀末〜20世紀初頭に、アメリカのフォトジャーナリズムの草分けであるジェイコブ・リース(1849-1914)が撮影したニューヨークのスラム街の写真群をプロローグに、テオドール・ジェリコーによる、もの思わしげな黒人の青年のポートレイトが映し出される。
ヴェントゥーラがまるで地下牢に続くような暗い階段を下っている。
白衣の男が連れ戻しに来た。ここは病院のようだ。しかし廃墟のようでもある。
ヴェントゥーラの手はずっと震えている。最期の時を待つように病室のベッドに横たわるヴェントゥーラ。甥や元同僚たちが訪ねてくる。
ヴェントゥーラが記憶の迷路に迷い込むように建物の中を彷徨っている。病室の一室で医者に質問されるヴェントゥーラ。
カーボ・ヴェルデから。19歳と3ヶ月だと答える。自分はフォンタイーニャス地区で迷子になった。今日は1975年3月11日。権力を奪回しようとしたスピノラ将軍がクーデターを起こした日。革命軍(MFA)によってここに連れてこられたと……。
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赤いシャツの男がヴェントゥーラの部屋に来た。この男は何者なのか。生きているのか死んでいるのかさえわからない。
ヴィタリナというカーボ・ヴェルデ出身の女が幻影のようにヴェントゥーラの前に現れる。お見舞いに来たと女は言った。
ヴィタリナは囁くように語る。
2013年6月23日、突然の知らせが来てポルトガルへ飛行機でやってきた。ポルトガルにいる夫ジョアンキン・デ・ブリト・ヴァレラが死んだという知らせだった。
ヴェントゥーラはその夫はここにいると語りかけるが、ヴィタリナは「あんたは地獄に向かう旅の途中だ」と言い放った。神経痛の薬のせいで、手の震えが止まらないとヴェントゥーラは言う。「お前の亭主は病気だがまだ生きている」
ズルミラに手紙は書いたのか、とヴィタリナはヴェントゥーラに尋ねる。ズルミラとはヴェントゥーラの妻の名前のようだ。ヴィタリナは語り続ける。
死亡証明書には夫が死亡したと書かれていた。
ヴェントゥーラの故郷の家が崩れ落ち、跡形もない。豚もニワトリもロバのセーラも死んだ、馬のディニェイロ(ホース・マネー)はハゲ鷲が引き裂いた。なぜか白衣を着たヴィタリナは、ただ、夫と自分の婚姻証明書を読み上げている。
「誕生日には赤いシャツをプレゼントした」
カーボ・ヴェルデ人の生活はいつも辛いんだと。
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兵士たちから逃げ隠れた森の中でナイフを手に戦い、深い傷を負って捕まったこともあったヴェントゥーラ。
赤いシャツの男との諍いを語る。武装した者たちが現れる。これはカーネーション革命の記憶なのだろうか。
次々と映し出されるカーボ・ヴェルデ移民たちの孤独な姿のバックに、カーボ・ヴェルデの有名な音楽バンド、オス・トゥバロス(鮫たち)による『アルト・クテロ(高貴なナイフ)』が流れる。
アマデウ・ガルデンシオ建設会社という看板の下から現れるヴェントゥーラ。
すでに廃墟になっているレンガ工場。繋がっていない電話。
ここで20年以上待っていたと話す同僚。
工場でヴィタリナに夫からの手紙を渡すヴェントゥーラ。病院の無機質なエレベータの中で武装した兵士と対話するヴェントゥーラ。
「ヴェントゥーラ、今はどこにいる?」と繰り返し尋ねる若い兵士。この兵士は何者なのか。
蘇ってくる革命の悪夢。ヴェントゥーラは、夕暮れの中、病院を出た。
ただナイフがケースの中で光っていた。