『ヴァンダの部屋』に続いて放つ
ペドロ・コスタ監督の衝撃作
鮮烈な日本公開となった『ヴァンダの部屋』から6年、ポルトガルの俊英が、
再びヴァンダを登場させて彷徨える人々を描き出す。
2006年のカンヌ国際映画祭を始め、世界各地の映画祭で『ヴァンダの部屋』
以上の驚きを与えた、ペドロ・コスタ監督の渾身の一篇である。
ストーリー/解説
愛する妻よ、俺の手紙は着いたか?
お前の返事はまだ来ないが、そのうち届くだろう・・・
古くからカーボ・ヴェルデ諸島出身のアフリカ系移民が多く住む、リスボン北西郊外のフォンタイーニャス地区。住民たちは開発に伴い建てられたばかりの近代的な集合住宅へと強制移住させられる。そんな移民労働者の一人で、34年この地区に住んできたヴェントゥーラは、突然、妻のクロチルドに家を出て行かれてしまう。
途方に暮れ、荒廃した貧民窟と新しい集合住宅の間を行き来しつつ、彼は、自身が「子供たち」と信じる、ヴァンダやベーテ、レントたち若い住民を訪ね歩き、対話を重ねながら自分の場所を見出そうとしていく。
ヴェントゥーラの立ち止まることのない聖なる歩みは美しく哀しいが、そのさまよう姿は、どこか『東京物語』の笠智衆を思い起こさせ、ユーモラスで微笑ましい。
また、ヴェントゥーラは愛する妻への手紙を暗誦し、若い労働者たちに伝えていく。
「愛しき妻へ 今度会えれば30年は幸せに暮らせるだろう。お前のそばにいれば力も湧いてくる。土産は10万本のタバコと流行のドレスを10着あまり、車も1台。お前が夢見る溶岩の家、心ばかりの花束・・・」(
ヴェントゥーラの手紙全文を聴く)
フランスのシュールレアリスム詩人ロベール・デスノスの詩と、ヴェントゥーラ自身の手紙から紡がれた美しく切ない言葉。まさに、詩は放浪者から生まれる。
1997年の『骨』、2000年の『ヴァンダの部屋』に引き続き、フォンタイーニャス地区にカメラを持ち込み、撮影された本作は、同じテーマでの第3作目となる。
現場にはデジタルカメラと録音機(DAT)、三脚などの最小限の機材でのぞみ、照明はほぼ自然光のみで撮影された。撮影期間は15カ月、週6日かけ、時には1シーンにつき20から30テイクも繰り返された。記録された映像は、60分テープで320本にも及んだ。
出演者には、ヴェントゥーラやヴァンダをはじめ、プロの俳優は一人もいない。
すべて、その地区の住人やペドロ・コスタの知人・友人たちである。しかしこの映画をドキュメンタリーか劇映画かを分類することは不可能であり意味がない。
ペドロ・コスタにおいては、映画はドキュメンタリー、フィクションの枠を越え、人間についての、土地についての壮大な叙事詩となる。
ポルトガル原題は「Juventude em marcha」。英語題の「Colossal Youth」は、
ウェールズ出身のアリソン・スタットンとスチュワート&フィリップのモックスハム兄弟による3人組ユニット、ヤング・マーブル・ジャイアンツの同名アルバムから連想されている。ちなみにこのアルバムがこのバンド唯一のオリジナルアルバムである。