13●中国★記録電影の20年

芸術家を夢見て北京に上京した友人らが、90年代に中国を離れて世界へ散っていく。前作『流浪北京』のダイジェストと佐藤真監督との貴重な対談模様を収録したNHK番組「アジア発ドキュメンタリー第1回中国」(1994年10月放送)と『四海我家』を上映。

文化大革命に青春時代を送り、今は学者や映画監督(『青い凧』の田壮壮)になっている元紅衛兵たちが、詳細に20数年前のその経験を語る。インディペンデント映画ならではの淡々とした本音。日本語字幕入りで本邦初上映。

佐藤真監督が中国インディーズのパイオニア呉文光とクロストーク。呉の生い立ちからドキュメンタリー観まで、同世代感をもつ佐藤監督が聞き手としてたっぷり紐解いていく貴重な映像。

埃っぽい北京郊外の集合住宅。毎日同じ街角に老人たちが集まり、おしゃべりに興じる。照りつける夏の暑さに耐え、春の突風に吹かれてよろよろ歩き、町が雪に覆われた静寂の冬には姿を隠す。共感と客観の絶妙な距離感。
■『老人』YIDFF99カタログ

多くの歴史的事件の舞台となった天安門広場の、1994年の日常をじっと見つめる。凧揚げする人々、テレビ取材班、武装警察、おのぼりさん。中国インディーズの典型、ノーナレーション観察スタイルのひとつの手本となった。

三峡ダムの建設で水没予定の奉節の町は、立ち退きや取り壊しに伴う混乱で大騒動となっていた。キリスト教会の人間関係や安宿の主人と当局の闘いを緻密に記録したカメラの遍在は、長期滞在し現地を熟知する監督ならではの圧巻。
■李一凡（リ・イーファン）監督、鄢雨（イェン・ユィ）監督 インタビュー
■『水没の前に』作品情報

三峡ダム建設のため、移住を余儀なくされる川沿いの村人。各人の事情を丹念に取材し、その心理に近づく。YIDFF 2007に『秉愛』で小川紳介賞を受賞する馮監督の原点。8mmビデオが初々しい効果をあげている。
■『長江の夢』YIDFF97カタログ

伝統画家による初めての映像作品『陳炉』は、陶器の街と人を瑞々しく描く。『蒋氏の家』では、まもなく取り壊される家に住む初老の生粋上海"貴族"が、北京女性との同居を通して異文化摩擦と奇妙な友情を経験する。
■『陳炉』監督インタビュー
■『陳炉』作品情報
■『蒋氏の家』監督インタビュー
■『蒋氏の家』作品情報

『風経』はチベット仏教の若い僧侶と弟子、そして監督が雪の聖山を巡る至福の旅。手持ちDVカメラの自由自在は『三元里』でも最大限。広州の旧市街地を撮りまくった映像を編集し、アンビエント音響をつけた秀逸なビデオアート作。
■『風経』監督インタビュー
■『風経』作品情報

福建省の高校で、受験勉強に取り組む3年生のあるクラスを1年かけて追う。熱血教師の指導のもとで懸命に勉強に励む生徒たちの姿から、ひとりっ子政策の歪み、貧富の格差、ネット中毒など現代中国の問題点が垣間見られる。

実家から夫の家へ嫁ぐ、働きずくめの未来が待つ田舎娘にとって、北京で出稼ぎする数年間は苦しくても自由の夢が見られるひと時。彼女たちの揺れる心情と運命への反抗を女性監督が至近距離から追う。
■『鳳凰橋を離れて』　YIDFF97カタログ

『靖国 YASUKUNI』の李監督の初長編。若い女性芸術家とかつて国民党の将軍だった老人─東京在住の中国人２人を軸に疎外と孤独を描く。撮影に小型ビデオを使い、意図的な色調整を加えた35ミリフィルムの仕上げが見事。
■『2H』 YIDFF 99カタログ

中国で初めてろう者の恋愛と感情世界を描いた作品。恋心を寄せるろう者の女性には台湾人の婚約者がいて、男は前妻やおせっかいな友人まで登場するから優柔不断に......。手話で交わされる活発な会話が躍動感あふれる。
■蘇青（スー・チン）監督、米娜（ミー・ナー）監督 インタビュー

浮気が自慢の鉄道員の父と、結婚生活の苦労ばかり語る母を軽やかなステップで捉え直す22歳の作者。中国にもついに家族ドキュが登場した『不幸せなのは一方だけではない』。対照的に抑制されたミニマルな映像で衰弱していく脳性麻痺の少年と家族の物語を寓話化し涙を誘う『一緒の時』。
■『一緒の時』 監督インタビュー
■『一緒の時』作品情報
■『不幸せなのは一方だけではない』作品情報

三峡ダムの建設によって移住させられる113万人の多くは農民。気概あふれる秉愛さんは、移住を推し進めようとする役人と渡り合い、この土地に立つ。来年2月に劇場公開されるニューサウンドバージョンを特別先行上映！一般公開の邦題は『長江にいきる　～秉愛の物語』に決まりました。
■馮艶（フォン・イェン） 監督インタビュー

暴力的な夫と別れアメリカで再婚した監督の姉。娘も渡米し同居が始まると、家族に亀裂が。同じ屋根の下、監督がコミカルに介入する。
■胡新宇 監督インタビュー

四川の茶館で古くから親しまれた歌舞劇「川劇」が観客の老齢化と共に危機にある。現代風に衣替えする劇団、がんこに破産へ向かう劇団......。

中国全土から上海のこの繁華街に集まった路上生活者。ゴミ拾い、かっぱらい、流し、物乞い......。あらゆる手段をもっても生き残ろうとする生命力の謳歌。

海賊版DVDを売る深圳の小さな店。アート系映画の情報収集に余念ない排骨だが、田舎出身で学歴のない自分でも「映画のような」幸せをつかめるのか......?

爆竹の喧騒と大騒ぎ。事件にむらがる野次馬。暴動前のガス抜きのような天安門広場での発散。作者の冷徹な批評眼が鋭い。上映後は黄牛田全員集合で大トークを予定。