1)新しい中国のドキュメンタリーとその広がり
司会:まず張亜璇さんから中国ドキュメンタリーについての簡単なお話を伺いたいと思います。1990年代辺りからのドキュメンタリー状況についてお話いただきたいと思います。
張亜璇(チャン・ヤーシェン、映画評論家):今日は中国ドキュメンタリーのトークに参加していただき、ありがとうございます。私から中国のドキュメンタリーの全体について、若い世代のドキュメンタリー作家たちの状況について、その後、お隣に座っている方々に具体的なお話をしていただこうと思います。
中国のインディペンデント・ドキュメンタリーの最も初期の作品として呉文光(ウー・ウェンガン)監督の作品があります。これは『流浪北京─最後の夢想家たち』という作品で、80年代末から90年代初期にかけて作られた作品です。私たちが意味する「新しい中国のドキュメンタリー」は、90年代末以後の若い世代によって制作されたドキュメンタリー作品です。ある意味、この山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)が中国ドキュメンタリーの確立に非常に大きな役割を果たしていたと言えると思います。
中国の新しいドキュメンタリー作品といいますと、それは99年と、2001年のYIDFFに出品されました作品があり、それらの作品が新しい中国ドキュメンタリー作品の初期の作品であったと言えます。呉文光の『江湖』もありましたが、その他の作品は呉文光よりも、もっと若い世代の作家たちの作品です。楊天乙(ヤン・ティエンイー)の『老人』、朱伝明(ジュウ・チュアンミン)の『綿打ち職人』。そして2001年には杜海濱(ドゥ・ハイビン)の『線路沿い』、それから王芬(ワン・フェン)の『不幸せなのは一方だけじゃない』という作品です。これらの若い世代の作家たちが活動をこの時代にスタートさせ、それはすなわち中国における新ドキュメンタリー作品のスタートであったということができます。そこに数々の中国のドキュメンタリーの特徴というものが如実に表れていたというわけです。
その特徴は、まず1つはこれらの映像作家たちは、完全に体制から遊離していたということ。この作家たちはほとんどが70年代以降に生まれ、専門的な映像の教育を受けたことがありません。もちろん今からみますと、その時代に既にこの馮艶(フォン・イェン)監督、そして季丹(ジ・タン)監督は、当時既に小型のデジタルビデオを使って作品を撮っていました。これらの作家に共通するのは、全てデジタルビデオカメラで撮影を始めていたということです。デジタルビデオの出現によって作家たちはより多くの自由を手にしたわけです。これらの作品の特徴は、非常に強烈なリアリズム、現実主義が出ているということです。この時代に始まったリアリズムというのは現在の中国におけるドキュメンタリーの主流になりました。
このような社会に目を向けた現実主義、リアリズムの作家たちは社会の最下層にいる人達、庶民に深く目を向けて、庶民を暖かく見守り、その生活を撮ることで発展してきたのです。それらのドキュメンタリー作家たちの社会に目をむけた深さや、幅広い眼差しというのは、今回のYIDFFに出品された作品の中にご覧いただけるでしょう。
それでは次に簡単に中国におけるドキュメンタリーの普及とどのような場所で紹介されているかということをお話したいと思います。
やはり中国の特殊な環境、社会事情によりまして、多くの方たちはその作品を目にすることはありません。特に2000年以前は。2000年前後に始まった社会現象としまして、中国のいくつかの都市で民間サークルのような組織がいくつか立ち上がってきたのです。そのサークルというか団体は中国の南の広州、深圳、北京、上海、武漢、最後に昆明、このような都市において立ち上がりました。映画の愛好家の組織です。
そして、2001年に非常に重要なことが起こりました。北京のある組織が中心となり、第1回インディペンデント・ドキュメンタリー映画祭が北京で開かれました。この映画祭がいかに重要な役割を果たしたかということは、私自身多くの若い作家たちから話を聞きました。この映画祭で色んな作品を観たことがきっかけで、自らもビデオカメラを持って撮るようになったのだと。この映画祭に参加していた人々は様々な理由により別の行動をとるようになりましたし、この2001年に開かれました映画祭は1回で終わってしまいました。
その時に参加した若者たちが、カメラを持つようになったということは、社会に撮りたいというエネルギーが潜んでいたということであり、そういう作品を観たいという人々が存在していたということです。このことがきっかけになり、中国のインディペンデント・ドキュメンタリー作品制作をどんどんと広げていくことが起こってきたわけです。そしてこれが雲南・昆明の雲之南紀録影像展(YUNFEST)に結びつき、また現像工作室の主催による、北京におけるインディペンデント・ドキュメンタリー映画祭が新たに立ち上がっていくということで、広がっていったわけです。
これらの具体的な事につきましては雲南のYUNFESTの方々(郭浄、楊昆、易思成)、また現像工作室の朱日坤さんにお話をいただきたいと思います。
>>2)映画を見よう、作ろう、集まろう
新しいドキュメンタリーを発見する雲之南紀録影像展(YUNFEST)の実践
につづく